発達障害は、家庭環境や育て方、個人の性格ではなく、脳の機能に偏りがあることが原因とされています。多くの場合、成人に至るまで診断されない人々は、その特性が比較的軽度であるか、それを補う特別な能力を有しているか、周りのサポートが適切であること、自身の適性に合った進路を選んでいることが考えられます。これらの人々はしばしば、個性が強いとか、少し変わっていると見なされがちですが、学生時代に大きな問題を抱えることは少ないです。
しかし、大学や専門学校への進学、社会人になる過程で、職場での責任が増すなど環境が変化すると、これまで表面化しなかった問題が顕在化し、不安や抑うつ、さまざまな身体的な症状が二次障害として現れることがあり、苦しむことになる場合があります。
発達障害には自閉症スペクトラム症(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)など、様々な種類があります。また、一人で複数の発達障害の特性を持つこともあります。
大人における発達障害の典型的な症状?
自閉スペクトラム症(ASD)
人と目を合わせて話すことに苦手意識がある。他人の感情や思考を理解し共感するのが困難に感じる。一緒に行動する集団内で自分の居場所を見つけるのが難しい、または強いストレスを感じることがある。気軽な会話の中で、どのように応じれば良いか判断できず戸惑う。複数人が交わる対話では、話題に追いつけず会話に加わることができない。音や光、他人との接触に対して極度に敏感である。一般的に「空気を読む」と表現される社会的な暗黙の了解を理解することが難しい。日常生活で他者が自然とこなしている行動や習慣が、自分には上手くできないと感じることがある。
注意欠如・多動症(ADHD)
一度に複数の仕事を手掛けるも、ほかの作業が気になり始めるとそちらに手をつけ、結果的にどれも中途半端に終わらせてしまうことがある。整理整頓が苦手で、周囲の雑音や会話によって容易に集中力が逸れる。趣味のゲームやインターネットに没頭すると、時間を忘れてしまい、気づけば夜も更けてしまっている。情報を簡潔に「まとめる」ことや「短く話す」ことに苦手意識があり、メール一つを書くにしても文章が長くなりがちで、適切な段落分けをすることが難しい。また、会話の要点を把握し、それをまとめ上げるのが困難である。
限局性学習症(SLD)
計算が得意でなく、支払いの際に混乱することがある。数字が多桁になると、理解が難しくなる。読むことや書くことに苦手意識を持っている。
この特性が原因で、日常生活において「生きにくさ」を経験している方はおられませんか?
どんな治療法が適しているでしょうか?
発達障害の特性は、個々人の固有の「感じ方・思考パターン・行動様式」と深く関わっています。この特性を根底から変えることが治療の目的ではなく、日常生活での障害を軽減し、より快適な生活を送るための方法や工夫を見つけ出し、本人が安心できる場所や適した役割を見つけることに重点を置きます。これを実現するためには、問題点を理解し、どのように改善すればよいかを多角的な方法で模索することが重要です。
的確な診断
情報収集には時間が掛かることもあります。
薬物療法
適切な薬を見つける過程は時間を要することがあります。
また、併発する症状の治療も重要です。
対処法を身につける
カウンセリングやスキルトレーニングといった手法が存在し、これらは集団でも個人でも有効です。
環境調整
支援を周りに求めることが大切であり、多くの支援機関を利用する選択肢があります。
主な発達障害の治療薬とは
抗うつ薬
主に、神経細胞間でのセロトニンを含むモノアミン類の濃度を増加させることで作用します。このことから、気分の落ち込みを軽減する抗うつ効果や、不安感を和らげる抗不安効果、強迫症状や固執する思考の緩和が期待できます。この分野でよく使用される薬剤には、SSRI(例:ルボックス、デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロ)、SNRI(例:サインバルタ、トレドミン、イフェクサー)、NaSSA(例:リフレックス)などがあります。
抗精神病薬
主にドーパミン受容体を遮断し、ドーパミンの活動を抑制することで作用します。この働きにより、過度の興奮や易怒性の症状の改善が期待されます。この効果を持つ薬剤には、SDA(例:リスパダール、ロナセン、ルーラン)、MARTA(例:ジプレキサ、セロクエル)、DSS(例:エビリファイ)などが含まれます。
気分安定薬
この治療法は主に双極性障害の管理に適用され、躁状態の特徴である過度の興奮、気分の高揚、そして易怒性の症状の緩和や、気分の波を安定させることを目的としています。また、感覚過敏の場合にも使用されることがあります。ADHD(注意欠陥・多動性障害)の主な治療薬には、ストラテラ(アトモキセチン塩酸塩)やコンサータ(メチルフェニデート塩酸塩)があります。
ストラテラ(非中枢神経刺激薬)
この方法は脳内の神経に直接作用するのではなく、ノルアドレナリンの再取り込みを行うトランスポーターの機能を妨げることで作用します。このプロセスを介して、ドーパミンの量が増加し、その結果として治療効果が期待できます。また、この治療薬は一般的な薬として扱われ、どの医師によっても処方可能です。
コンサータ(中枢神経刺激薬)
この治療法では、脳内の神経細胞に直接作用し、トランスポーターの機能を制限することでドーパミンをはじめとする神経伝達物質の再取り込みを阻害します。この手法により、神経伝達の効率が向上し、症状の改善が期待できます。日本では、特定の資格を持った医師のみがこの種の薬を処方することが認められています。ADHDの背景には、放出されたドーパミンなどの神経伝達物質が通常よりも速く再取り込まれてしまい、神経伝達に不具合が生じているという理解があります。
インチュニブ(非中枢刺激薬)
日本におけるADHD治療の進化として、特定のα2Aアドレナリン受容体を選択的に活性化させる薬剤が初めて導入されました。この治療薬は、小児期(6歳以上18歳未満)だけでなく、成人(18歳以上)においてもADHD治療に対応している点が特徴です。臨床試験においては、ADHDの主要な症状である多動性や衝動性、不注意に対しても改善効果が確認されています。
服薬の注意点
薬の種類によっては、効果が即時に現れるものもあれば、服用開始から2週間後に徐々に効果が現れ、約8週間で効果が安定するものも存在します。自己判断での服薬の中止や量の調整は避けてください。他の医療機関を受診する際は、必ず現在服用中の薬について申告してください。服用中は車の運転や飲酒を控えてください。女性の方は、服用中の妊娠や授乳を避け、事前に医師と相談することが重要です。普段と異なる症状が現れた場合は、遅れずに医師に相談してください。症状や気になる点を紙に記載し、医師に伝えることも効果的です。
対応策のヒント
人の性格や特性は、それぞれ異なり、人は多様性に富んでいます。自己の特性を深く理解し、それを周囲との対話を通じて共有することは、充実した人間関係を構築する上で非常に重要です。自身の長所や得意分野を活かす方法を見つけ、それを生かすことが重要です。赤坂クリニックでは、発達障害のスクリーニングとしてWAIS検査を提供しています。この検査は最終的な診断を下すものではなく、診断の参考や自己理解を深めるための手段として位置づけられています。
予定や手順を整理しよう
予期せぬ出来事や新しい環境に対する苦手意識がある場合があります。計画や手順を明確にすることで、安心感を得られ、落ち着いて作業を行うことが可能になることが多いです。日々のスケジュールや作業の流れを、絵や写真カード、テキストなど視覚的に分かりやすく示すことが効果的です。計画において不確かな部分は、「この部分は流動的」として認識しておくと良いでしょう。特に、活動の終了時刻や終わりの節目を明確にすることで、作業に取り組む際の安心感が増します。たとえば、作業を始める前に「○時まで」や「ここまでが終わり」と定めておくと役立ちます。
取り組む場所を固定しよう
場所に応じて活動内容が明確になるようにすると、安心して取り組める場合があります。たとえば、「ベッドは睡眠のための場所」とか、「この部屋では食事をする」といったように、特定の場所を特定の活動に割り当てることで、心地よさを感じやすくなります。場所や時間、そして行うべきことを区分けし、細分化することで、心の切り替えが容易になります。
また、職場では、責任や権限が曖昧であると混乱を招きやすいため、指示系統を明確かつ簡潔にすることで、ストレスを軽減できます。このように、環境や情報を整理し、簡略化することが、安心感の確保やストレスの軽減につながります。
時間をしっかりと区切ろう
しばしば、柔軟な対応や手を抜くことが難しいと感じる人もいます。完璧主義に陥り、結果として過労を招くことがあります。たとえば、休憩をこまめに取り、作業時間を限定するなどして、労働を短時間に区切ることに意識を向けることが、長期間にわたって安定して取り組む助けになることがあります。
こだわりを過ぎないようにしよう
時として、自分だけの厳格なルールや信条にこだわりすぎることがあります。その結果、ルールに縛られることで不機嫌になったり、気分が沈んだり、孤立することもあるかもしれません。確かに、一貫性を持つことは価値がありますが、世の中の事柄は常に変動し、予期せぬ方向に進むこともあります。そのため、全てが常にルールに沿って進むわけではないという現実を受け入れることも重要です。
敏感になりすぎないようにしよう
五感が通常よりも鋭敏な人は、日常生活の中でさまざまな刺激によってストレスを感じやすい傾向にあります。たとえば、騒がしい環境で不安を感じたり、会話の内容が聞き取りにくかったり、パソコンの画面の光に目を疲れさせやすいといったことが挙げられます。他人の話し声だけでなく、背景の雑音も拾ってしまう場合、イヤホンをして静かな音楽を聞いたり、耳栓を使うことが助けになります。また、パソコンの画面や蛍光灯の光が苦手な人は、専用の眼鏡やサングラスを使用することで、少し落ち着けるかもしれません。完全に刺激を避けることは難しいため、徐々に慣れていくことが大切です。
自己の特性を把握し、それを基に周囲とのコミュニケーションを積極的に行うことは、充実した人間関係を構築する上で非常に重要です。自分の長所や得意分野を活かすためのアプローチを考え、応用してみましょう。さらに、周りの人々と協力し合う体制を作り上げることも大切です。自分自身をありのままに受け入れ、現時点でできていることを認めることから始め、その上で自分の良い側面をさらに伸ばしていけるよう努めましょう。
家族や周囲の対応方法
病気を理解しましょう
発達障害は、脳機能に関連する特性であり、個人の性格や努力の欠如とは無関係です。発達障害について「適切に」理解を深めることは、当事者及びその家族を支援する上での出発点となります。
周囲の人との連携しましょう
協力的な関係を周りの人々と構築しましょう。また、状況に応じて、発達障害支援センターやその他の相談窓口を利用することも効果的な手段です。
よくある質問
- Q.発達障害の典型的な症状は何ですか?
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発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)があり、対人コミュニケーションの困難や注意散漫、過度の敏感さなどが特徴です。
- Q.発達障害の治療法にはどのようなものがありますか?
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治療法には、薬物療法やカウンセリング、スキルトレーニング、環境調整などがあり、個々の症状や特性に応じて組み合わせて行われます。
- Q.家族や周囲が発達障害を持つ人を支援するために重要なことは何ですか?
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発達障害を正しく理解し、協力的な関係を築き、必要に応じて発達障害支援センターや相談窓口を利用することが重要です。