職場にADHD(注意欠如・多動症)の特性がある同僚がいると、「理解はしたいけれど、正直しんどい」「仕事に支障が出ていて限界」と感じる場面も少なくありません。
一方で、発達障害は医学的な特性であり、単なる性格の問題ではないため、感情だけで関係を断ち切ることも現実的ではありません。
このコラムでは、
- 職場で「やめてほしい」と感じやすいADHD特性の行動
- 今日からできる、角を立てにくい具体的な対処法
- 法律・会社の仕組みの中でできること・できないこと
- 限界になる前に取れる「最終手段」
を、医療・法律・産業保健の観点を踏まえて解説します。
※ここでいう「ADHDの同僚」は、本人が診断を受けている場合だけでなく、「発達障害かもしれない」と感じる同僚を含めた、一般的なイメージを指しています。
なぜ「限界」になるのか?よくある行動パターン
ADHDは、不注意・多動性・衝動性などの特性によって、仕事の場面でさまざまな困りごとを引き起こしやすいとされています。
まずは「どんな行動が、どんな負担につながりやすいのか」を整理しておくことが、冷静な対処の第一歩です。
よくある困りごと一覧
| 行動の特徴 | 周囲に起きやすい影響 |
|---|---|
| 同じミスを何度も繰り返す | 修正対応が増え、自分の業務時間が圧迫される |
| 話が長く、雑談が止まらない | 作業が中断され、集中力・生産性が低下する |
| 集中している時に急に話しかけてくる | 思考が途切れ、ミスや作業遅延の原因になる |
| 期限・段取りの管理が苦手 | 納期遅れ・タスク抜けが発生し尻拭いが増える |
| 責任の所在があいまいな発言をする | 不公平感が強まり、チームの士気が下がる |
何度も同じミスが起きて仕事が増える
ADHDでは、注意を持続することや細部まで注意を向けることが難しく、「確認したつもりでも抜けていた」といったミスが繰り返されることがあります。
その結果、周囲の同僚が修正作業やダブルチェックに追われ、本来の業務時間が削られていきます。
話が止まらず、自分の業務が進まない
多動性や衝動性により、思いついたことをすぐ口に出してしまう、話題があちこちに飛んでしまう、といったコミュニケーション上の困りごとが起きやすいとされています。
業務に関係のない雑談や長い脱線が続くと、聞き手は作業を中断せざるを得ず、「仕事の邪魔をされている」と感じやすくなります。
集中しているタイミングで突然話しかけてくる
相手の様子を読むことが苦手だったり、「今言わないと忘れてしまう」という不安から、その場で話しかけてしまう人もいます。
特に、複雑な作業や締め切り前の時間帯にこれが続くと、ADHDの同僚の存在自体が「業務の妨げ」と感じられてしまうこともあります。
責任感に欠けて見える言動で尻拭いが続く
ADHDでは、タスクを計画・整理し、優先順位をつけて進める「実行機能」が苦手なケースが多いとされています。
そのため、納期の見積もりが甘くなったり、抜け漏れが起きやすく、「悪気はなさそうだが結果的に周囲が尻拭いをしている」という状況が繰り返されることがあります。
まずは「自分の心と仕事」を守るための対処法

相手の特性そのものを変えることは難しいですが、自分側の工夫で被害を最小限にすることは可能です。
ここでは、明日から試しやすい現実的な方法をまとめます。
1. 角を立てずに「今はできません」と伝える
キャパシティを超えた依頼や、本来の担当外の仕事を頼まれた時は、はっきり線引きをすることが大切です。
例:
- 「今はA案件の締め切り前なので、15時以降ならお手伝いできます」
- 「この業務はBさんの担当なので、まずBさんに確認してもらえますか」
「できません」とだけ言うのではなく、時期・範囲・担当を具体的に示すことで、関係を悪化させずに自分の業務を守りやすくなります。
2. 口頭だけにしない:チャット・メールで記録を残す
忘れやすさや解釈のずれを防ぐためには、「口頭+テキスト」の二重で伝えることが推奨されています。
- 指示・お願いは、必ずチャットやメールで要点を箇条書きにする
- 期限・優先順位・担当範囲を明記する
- 依頼後、「内容に不明点があれば教えてください」と一言添える
こうすることで、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、進捗管理もしやすくなります。
3. 物理的な距離・集中サインで自分の作業環境を守る
頻回の話しかけや雑談に悩んでいる場合、環境を調整することも有効です。
- 上司に相談し、座席配置や席替えを検討してもらう
- 締め切り前は会議室やフリースペースで作業する
- ノイズキャンセリングヘッドホンや、視覚的に「集中しています」というサインを使う
産業保健の現場でも、「集中環境の整備」は合理的配慮の一つとして推奨されています。
4. タスク完了報告をルール化して進捗を可視化する
共同作業では、「どこまで終わったか」が分かりづらいと、不安や不信感につながります。
- 「このタスクが終わったら、チャットで一言報告をお願いします」と事前に伝える
- 進捗ボードやタスク管理ツールを用意し、「担当」「期限」「ステータス」を共有する
- 報告をもらったら、簡単でも受け止めるリアクションを返す
こうした仕組みは、ADHDの当事者にとってもタスク管理の助けになりやすいと報告されています。
「辞めてほしい」は実現できる?法律上のポイント

「もう限界なので辞めてほしい」と感じても、会社が従業員を解雇するには厳格なルールがあります。
ここでは、日本の法律・行政の考え方を踏まえて、現実的にどこまでが可能なのかを整理します。
ADHDという特性だけを理由に解雇することは困難
日本では、「障害者差別解消法」などにより、障害を理由とした不当な差別的取り扱いが禁止されています。
企業には、障害のある従業員に対し、合理的な配慮を行う努力義務・義務が課されています。
そのため、
- 「ADHDだから」
- 「発達障害があるから」
という理由だけで解雇することは、不当解雇と判断されるリスクが高いと考えられています。
業務に著しい支障があり、改善努力でも解決しない場合
一方で、障害の有無にかかわらず、「客観的に見て、労働契約の継続を期待できないほどの能力不足や業務命令違反」がある場合は、普通解雇が検討される余地があるとされています。
ポイントは、
- 会社がどのような指導・研修・配置転換・業務調整を行ったか
- それでもなお、重大な問題が繰り返されているか
- 就業規則や労働契約に照らして合理的かどうか
といった客観的なプロセスです。
個々の同僚が「辞めさせてください」と直接求めても、それだけで解雇が行われることは通常ありません。
会社の判断・労務管理の領域になるため、この点は冷静に理解しておく必要があります。
一人で抱え込まないための、上司への相談の仕方

状況を変えるには、上司や人事・産業医など「組織の窓口」に情報を届けることが重要です。
ここでは、「感情的になりすぎずに、相談を建設的なものにするコツ」を紹介します。
1. 事実を記録しておく(いつ・何が・どんな影響)
産業保健の実務では、「具体的な事実の記録」が非常に重視されます。
記録に残したいポイント
- 日時(例:4月10日 15:00〜)
- 行動(例:A案件のデータ入力で誤入力が複数あり)
- 影響(例:修正に2時間を要し、自分のB案件の作業が翌日にずれた)
このような記録は、上司が状況を客観的に把握し、組織としての判断を行う際の重要な資料になります。
2. 感情ではなく「業務への影響」を中心に伝える
「イライラする」「性格が合わない」という言い方では、個人的な対立と受け取られてしまいやすくなります。
代わりに、
- 「この行動により、チーム全体の残業が月○時間ほど増えています」
- 「プロジェクトの納期に○日の遅延リスクが生じています」
といった、業務上の具体的な影響を中心に説明することが推奨されます。
3. 「どうしてほしいか」をセットで伝える
相談時には、単なる不満の共有ではなく、具体的な要望も添えると話が前に進みやすくなります。
例:
- 「業務手順の再確認を上司から行ってほしい」
- 「一定期間、タスクを分けて担当を明確にしたい」
- 「席替えやリモートワークの活用を検討してほしい」
こうした提案は、「周囲の支援」「職場の合理的配慮」としても、発達障害支援の指針で推奨されています。
上司や会社が動かないときに考えたい「最終手段」

上司に何度も相談しても状況が変わらない場合、「自分がこの環境から離れる」選択肢を検討せざるを得ないこともあります。
部署異動を正式に申し出る
同じ会社の中で環境を変えることは、「比較的リスクの低い選択肢」の一つです。
希望を伝える際は、同僚個人の批判ではなく、
- 「このままだと業務のパフォーマンスを発揮しにくいと感じている」
- 「別部署の方が自分の経験・強みが活かせる」
など、前向きな理由も併せて伝えると受け入れられやすくなります。
心身の限界を感じる前に転職を検討する
会社全体の体制が変わりそうにない場合、転職によって環境を変えることも現実的な選択肢です。
長期間ストレスにさらされ続けると、うつ病・適応障害などを発症し、復帰に長い時間がかかることがあります。
「我慢して心身の健康を損なう前に、環境を変える」ことは、自分を守るための大切な判断です。
よくある質問(Q&A)

Q1. 同僚本人に「ADHDでは?」と指摘してもいいですか?
A. 医師の診断がない状態で、同僚に「ADHDだと思う」「発達障害では?」と伝えることは、基本的に避けるべきです。
発達障害は非常にデリケートなテーマであり、善意のつもりでも相手を深く傷つけることがあります。
業務上の問題がある場合は、「診断名」ではなく、「具体的な行動」と「業務への影響」に焦点を当てて伝えましょう。
Q2. 注意すると「障害者差別だ」と言われないか心配です
A. 業務上必要な範囲での指示・注意であれば、障害の有無にかかわらず、通常は差別には当たりません。
ただし、人格を否定する言い方や、障害特性を揶揄する表現は避け、「業務に必要なルール・役割」として冷静に伝えることが重要です。
Q3. 我慢し続けて自分が体調を崩してしまったら?
A. まずは心療内科・精神科などを受診し、現在の状態を専門医に相談してください。
仕事のストレスが主な原因と診断された場合、休職・就業配慮・労災申請などの選択肢が考えられます。
「周囲に迷惑をかけたくない」と一人で抱え込まず、自身の健康を最優先に行動することが大切です。
当院でご相談いただけること
ADHDの同僚との関係に疲れ切ってしまう背景には、ご自身のメンタルの疲弊や、過去のストレス経験が影響していることもあります。
「同僚のことを考えると仕事に行きたくない」「眠れない・食欲がない」などの症状がある場合は、一度医療機関で状態を確認することをおすすめします。
当院では
- 職場の人間関係・ストレスに関するご相談
- ADHDを含む発達障害の可能性に関するご相談・評価
- 必要に応じた診断書の作成、休職・復職支援
- カウンセリングによるストレス対処法のサポート
などを行っています。
「同僚のことで限界かもしれない」と感じたら、お一人で抱え込まず、早めにご相談ください。



