摂食障害は、ストレスに適切に対処できないときに発生する心身症のひとつです。拒食症や過食症などの食行動異常が目立ちますが、問題の本質は食べ方そのものではなく、その行動を通じてこころが発しているSOS信号にあります。
摂食障害が進行すると、身体に多くの悪影響を及ぼし、時には命にかかわる状況にも至ります。さらに、自傷行為やアルコール、薬物依存症へと繋がる可能性もあります。拒食症の場合でも、嘔吐や下剤の乱用があると過食症と同様の健康被害が生じることがあります。異常に気付いた際には、迅速かつ適切な対応が必要です。
いろいろな摂食障害タイプ
拒食症
拒食症による栄養不足は、身体の多くの機能に影響を及ぼします。骨密度の低下、筋力の減退、心臓の問題、および内分泌系の不調が生じることがあります。また、栄養不足は免疫システムの弱体化を招き、体の回復力を低下させます。
拒食症で体重が減ると、精神的なストレスへの感受性が低下するため、困難な学習や訓練にも耐えやすくなり、その結果、一時的に成績やパフォーマンスが向上することがあります。
過食症
過食症の特徴である、おう吐や下剤の乱用は、身体に深刻な影響を与えます。頻繁なおう吐は、胃酸が歯を侵食し、歯の損傷や口腔衛生の悪化を引き起こすことがあります。また、電解質の不均衡や脱水、心臓の問題、腸機能の低下をもたらすこともあります。過食症では、過食している間だけはストレスを忘れることができるため、一時的な安らぎを感じることができます。
下剤の乱用は、腸の正常な動きを乱し、便秘や腹痛を引き起こす可能性があります。これらの影響は身体的な健康に加え、精神的な苦痛も伴うため、早期の専門的な支援が重要です。
摂食障害は、主に思春期の女性に多く見られる疾患ですが、男性や高齢者にも影響を与えることがあります。また、中高年になってから再発することもあります。真面目で不安感を感じやすい完璧主義の人々は、摂食障害にかかりやすいと言われています。
拒食や過食が、ストレスを和らげる唯一の方法と感じるようになると、これらの行動を止めることが困難になります。極端な考え方を修正し、ストレスに対処する能力を向上させることが、回復への重要なステップとなります。
摂食障害の人と家族がするべき対処法
摂食障害は、本人が一人で克服するのが難しい病気であり、周囲のサポートと理解が不可欠です。摂食障害の人は、日々の生活や人間関係、学業や仕事など、多くの面で困難を抱えることが多く、その困難を一人で乗り越えるのは非常に困難です。そのため、家族や友人、専門家の協力が重要です。
治療には、通常、心理療法、栄養指導、薬物療法などの多角的なアプローチが必要です。心理療法では、本人のストレスへの対処法や自己評価の改善、極端な思考パターンの修正などが行われます。栄養指導では、健康的な食事の習慣を取り戻し、栄養バランスを整えることが目指されます。薬物療法は、必要に応じて、摂食障害に伴う不安や抑うつの症状を緩和するために用いられます。
回復には個人差があり、一般的には数年かかることも珍しくありません。家族や友人は、当事者が治療に向き合う時のサポート役として、共感や理解を示し、安心感を与えることが求められます。また、家族自身も精神的なストレスを感じることがあるため、家族向けのサポートグループやカウンセリングを利用することで、自身のこころの健康を保つことも重要です。家族と本人が一体となって、長い時間をかけて治療と回復に取り組むことが、最終的な回復への道を開くのです。
こうすれば回復が早まる!摂食障害と上手く付き合い方
摂食障害からの回復には、考え方や行動パターンの変革が必要です。しかし、これはすぐに達成できるものではないため、治療には長い時間がかかります。焦る気持ちや、早く回復したいという思いもあるかもしれませんが、じっくりと時間をかけて取り組むことが重要です。
摂食障害の人にとって、「痩せる」ことや「過食する」ことは、ストレスを軽減するための手段であり、厄介な存在でもあります。しかし、これらは自分を助ける「悪友」のような存在でもあります。
とはいえ、健康を害したり、社会生活に支障をきたすようでは困ります。そこで、時折顔を出す「悪友」と適度に付き合いながら、少しずつ「ありがとう。でも、もう大丈夫」とお別れしていくイメージを持つことが大切です。
摂食障害からの回復には、このようなこころの中での変化を受け入れ、ゆっくりと自分のペースで進むことが必要です。治療の過程では、専門家の助けを借りながら、ストレスの対処法を再構築し、新しい行動パターンを身につけていくことが重要です。焦らずに、じっくりと自分のペースで進んでいくことで、より確実な回復が見えてきます。
心配よりも病気を理解することが大事
一度根付いた考え方や行動パターンを変えることは、簡単ではありません。そのため、家族は摂食障害という病気について理解を深め、当事者を長い目で支えていくことが重要です。
家族は、「もっと食べて!」や「食べ過ぎないで!」といった常識的なアドバイスをしてしまいがちです。しかし、これらの言葉は、時に当事者の食行動を非難するように聞こえ、結果的に摂食障害を悪化させてしまうことがあります。
そのため、当事者が一人で無理をして頑張っていることに共感し、こころからのいたわりを示すことが大切です。そのうえで、当事者のストレスを減らし、自己肯定感を高めるための支援を行うことが効果的です。家族が優しく支え、批判ではなく理解を示すことで、当事者のこころの負担が軽減され、回復への道が開ける可能性が高まります。
食生活よりも行動や努力を褒める
家族や周囲の人たちが、頑張りすぎて疲れ果てた自分を批判せず、支えてくれるという経験は、摂食障害からの回復に大きな力を与えます。体重や食行動にフォーカスするのではなく、日常生活の中で起こる良い変化や、小さなことでも努力や工夫が見られたときに、それを認めて褒めることが重要です。そうすることで、当事者は自己肯定感を得て、自分自身を大切にする意識が高まり、回復への道が広がります。
家族全体のメンタルケアを
摂食障害の当事者を支える家族は、他の精神疾患の当事者の家族に比べて、ケアの負担感が大きく、心身ともに疲れ果てることが多いと言われています。家族自身が不安や悩みを抱えやすいため、こうした問題は医師や専門家に相談することが重要です。
摂食障害の人を持つ家族の中には、「自分の育て方が悪かったから、子供が摂食障害になったのではないか」と自責の念を感じる人もいますが、家族が原因であることを示す科学的な研究はありません。実際には、当事者の回復には、家族や周囲の人々の適切な協力と支援が非常に重要です。批判的な態度を取ったり、摂食障害に関連する行動を嘆いたりすることは、当事者の回復を遅らせることがあります。また、過食用の食品を代わりに購入するなどの行為は、治療に悪影響を及ぼすことが知られています。
家族自身の精神的な健康を保つためには、家族会や自助グループなどに参加して、同じような悩みを抱える他の家族と話すことが有益です。そうした場で、自分の悩みを共有し、摂食障害に関する正しい情報を得ることで、家族も冷静さを取り戻し、根気よく支え続けることができます。
家族は、摂食障害の人にとって重要なサポートシステムです。当事者が順調に回復するためには、家族が自身のこころの健康を保ちながら、気持ちに寄り添い、批判ではなく共感と理解を示すことが欠かせません。専門家の助けを借りながら、家族全体で回復のプロセスに取り組むことが、摂食障害からの回復を成功させるカギとなります。
よくある質問
- Q.摂食障害の回復にはどのような治療が必要ですか?
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摂食障害の治療には心理療法、栄養指導、薬物療法などの多角的なアプローチが必要です。心理療法ではストレス対処法や自己評価の改善が行われ、栄養指導では健康的な食事習慣の回復が目指されます。
- Q.家族が摂食障害の患者を支える際に重要なことは何ですか?
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家族は、批判せずに共感と理解を示し、患者の努力を認めて褒めることが重要です。また、家族自身の精神的健康を保つためにサポートグループや専門家の助けを利用することも推奨されます。
- Q.摂食障害の回復にどのくらいの時間がかかりますか?
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回復には個人差がありますが、一般的には数年かかることも珍しくありません。治療には長期的な取り組みが必要であり、焦らずに自分のペースで進むことが重要です。