ADHD(注意欠如多動性障害)の特性のひとつに、「先延ばし癖」があります。仕事の締切りを守れない、家の掃除をしない、重要なアポイントメントの準備を遅らせるなど、不快なことや面倒なことを後回しにする様子が頻繁に目立ちます。
ADHDがある方に対して、モチベーションを高めるために褒めたり、報酬を用意するなどの工夫をしても、時には効果が見られないことがあります。
ADHDの「先延ばし癖」や「やる気が出にくい」原因と、それを支えるための適切なサポート方法について勉強します。
先延ばし癖とモチベーションは関係している
ADHDを持つ人は、嫌なことを後回しにしたり、興味のないことに対してやる気が出ないことがあります。これは「実行機能の弱さ」という脳の特性が原因とされています。この特性により、計画を立てたり、優先順位をつけたりするのが難しく、結果としてタスクの開始が遅れたり、途中で挫折することが多いのです。
そもそも先延ばし癖って?
「先延ばしグセ」とは、ADHDの特性がなくても一般的に見られる行動ですが、課題や提出期限に間に合わなかったり、片付けや掃除、日常のルーティンが滞ったりすることは誰にでもあります。また、興味や好奇心がある活動には積極的に取り組む一方で、嫌なことや面倒なことは後回しにする傾向が見られます。
「手続きや支払いの期日を過ぎてしまう」「季節の変わり目に衣替えをしていない」など、ほとんどの人が何らかの形で「先延ばし」を経験します。
ADHDの特性がある場合、特にやる気が出にくく、何も手が付けられない状態が続くことがあります。タスクに対する苦手意識が強く、単なる「怠け」や「努力不足」とは異なり、本人の努力だけでは解決しづらい問題が潜んでいることが多いです。
モチベーション維持が大事
抱えている問題が特性に由来するだけでなく、「やる気がない」「甘える傾向がある」といった性格的な課題が存在する場合には、その特性を考慮しつつも、「モチベーションの向上策」に取り組む必要があります。これは、単に特性を理解するだけではなく、具体的な対策を講じて行動変容を促すことが求められるためです。
脳内の実行機能に寄り添う
ADHDの特性である「実行機能の弱さ」とは、行動を計画し、優先順位を付け、衝動を制御するなど、自己管理に関わる脳の機能です。ADHDを持つ人たちは、この実行機能の欠如によって不注意、多動、衝動性の問題を抱えることが多いです。
計画立てと段取りの困難
計画の終わりまでの作業を逆算する能力が欠けており、どのタスクをいつまでに終えるべきかを決めることが出来ません。これにより、計画を始める時点で混乱し、やる気が失せてしまうことがあります。
スケジュール通りに進めることの難しさ
仕事に必要な時間の見積もりが甘く、計画通りに進行できないことがあります。過去の経験から時間を見積もることができず、非現実的な計画を立ててしまい、結果的に時間が不足することがよくあります。
行動の切り替えが困難
ひとつの活動から次の活動への移行がスムーズに行えないため、ONからOFFに切り替えるなど、仕事後にリラックスする時間から次のタスクへと移るのが難しいです。
感情と行動のコントロールの欠如
作業中に別の誘惑があると、それに気を取られ作業が中断されることがあります。オフィスでの作業中に突然メールチェックが始まり、本来のタスクから脱線してしまうことがあります。
これらの例は、ADHDの実行機能の弱さが、職場でのパフォーマンスにどのように影響を及ぼすかを示しています。このような課題は、脳の特性によるものであり、それぞれの意志だけでは克服が困難なため、職場や家庭での適切な理解とサポートが不可欠です。
発達障害は目に見えにくい
発達障害は外見からは分かりにくい障害であるため、頻繁に「もっと努力すれば克服できる」と誤解されがちです。しかし、実際には「やりたいと思っていてもできない」という状況に陥ることがあります。このような場合、まずはその「できない原因」を特定し、除去するサポート体制が必要です。
しかし、原因を取り除いたとしても、その後の行動には「やる気」が必要になります。そのため、障害の特性に配慮するだけでなく、その人に合った「やる気を引き出す方法」についてもサポートを考慮することが重要です。職場や日常生活の中で自分自身や周囲が適切なサポートを行うことが、より効果的な活動を促すために必要になります。
ADHDのモチベーションを上げる効果的なポイント
ADHDの特性により行動開始が難しい場合、その特性に合わせたアプローチが効果的です。ここでは、職場や個人の日常で実践できる「先延ばしを防ぎ、やる気を引き出す」テクニックを紹介します。
行動計画の共同作成
「計画を立てることや段取りを考えるのが苦手」という特性がある場合、一緒に行動計画を立てることが効果的です。具体的なゴール設定だけでなく、その達成のためのスモールステップとそれに対する明確な期日を定めることがポイントです。計画の可視化と明確なステップは、実行可能性のイメージを持たせ、「やる気」を引き出し、取り組みやすくします。
行動の切り替えをサポート
「行動の切り替えが苦手」という特性がある場合、事前に明確なスケジュールを設定しておくと良いです。「15分間はメール処理をし、次の30分はプロジェクトの資料作成にあてる」など具体的に時間を区切ることで、スムーズに次のタスクに移る手助けになります。タイムマネジメントのツールやアラームの使用も効果的です。
集中力を支える作業環境作り
「注意散漫になりやすい」という特性には、周囲の環境を整えることが重要です。作業スペースを整理整頓し、必要なものだけを手元に置くこと、不要な物は遠ざけることが集中を助けます。また、部屋の配置を工夫したり、遮光カーテンやパーティションを使用することも有効です。
視覚や聴覚の刺激を遮断するために、ノイズキャンセリングヘッドホンの使用も考えられます。このような環境設定が、集中力を維持するのに役立ちます。
声かけのタイミングに注意
作業中の「よくできているね」などの声かけは、集中を妨げる可能性があるため、控えめにしましょう。必要なフィードバックは、作業の合間や一段落した時に行うと、効果的に行動をサポートできます。
やる気スイッチはたくさん作る
「やりたい」と思わせるようにするためには、「先のことを見通すのが苦手」という特性に対応することが大切です。
仕事や日常のルーティンでなぜその活動が必要なのか、そのメリットが見えにくい時、行動に移すモチベーションが低下することがあります。例えば、キャリアアップを目指す場合、具体的なキャリアの道筋を示し、そのために必要なスキルや知識がどのように役立つのかを明確にすることが効果的です。
また、興味や情熱を持ちやすい分野に注目し、その分野での成功体験を増やすことで、「好き」という感情を強化することも重要です。成果を出しやすい分野を見つけ、そこでの達成を認め、適切に褒めることで自信をつけさせると、やる気を引き出すのに役立ちます。
過集中には要注意
やる気が強く発動すると、「過集中」という現象が起こり得ます。この状態では、疲労や空腹を感じることが難しくなり、最終的に体調を崩すリスクが高まります。特に、業務やプロジェクトに没頭することが日常生活に悪影響を及ぼすこともあります。そうした状況を防ぐためには、定期的に休憩を取ることが大切です。これにより、持続可能なペースで作業を続けることができ、健康を維持することにもつながります。
適切なサポートでより良い日常生活を
ADHDの特性である「実行機能の弱さ」は、思いもよらず「努力不足」と誤解されがちです。ただ単にやる気がないのではなく、やる気スイッチが入りにくいという特性があることを理解することが重要です。もちろん、実際に「やる気がない」または「怠けがち」というケースも存在しますが、これらの場合には、特性上やる気を引き出すのがさらに難しくなります。このため、特性への配慮だけでなく「やる気アップ」のためのサポートが必要になります。
批判や叱責が続くと、自己肯定感も低下し、積極的な行動を取ることがさらに困難になることがあります。特に、やる気が出ない時に叱られることで、他者とのコミュニケーションを避けようとする傾向が強まることもあります。本人は「やりたい」と感じていても、「できない」というジレンマや、「やりたくないことを無理にでもしなければならない」という苦しさを抱えることがあります。
ADHDに関わる「苦手」な部分に対しては、周囲の理解とサポートが不可欠です。同時に、ADHDの特性には「好きなことには没頭できる」という長所もあります。この「強み」にスポットを当てることで、前向きな姿勢を取り戻し、自信を築く手助けができます。好きなことや得意なことを増やすサポートを進めることが、積極的な自己表現や自己実現へと繋がります。
よくある質問
- Q.ADHDの人はなぜ先延ばしをしてしまうのですか?
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ADHDの人は、実行機能の弱さにより計画を立てたり、優先順位をつけたりするのが難しいため、タスクの開始が遅れることが多いです。また、嫌なことや面倒なことを後回しにしがちです。
- Q.ADHDの先延ばし癖を改善するためにはどうすれば良いですか?
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行動計画を一緒に立てる、スケジュールを設定して行動の切り替えをサポートする、作業環境を整えるなどが効果的です。また、タイムマネジメントツールやアラームの使用も有効です。
- Q.ADHDのモチベーションを上げるにはどうしたら良いですか?
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小さな達成感を得られるスモールステップの設定、環境調整、タイムマネジメントのツール使用、適切なフィードバックなどでやる気を引き出すことが重要です。休憩を取りながら作業を進めることも助けになります。