言われたことができないのは大人の発達障害?まず知っておきたいこと

「言われたことができない」と聞くと、やる気がない、注意して聞いていない、怠けている、といった印象を持たれることがあります。
しかし実際には、本人の努力不足ではなく、注意、理解、記憶、段取りといった認知機能の特性が関係している場合があります。
特に、仕事で「指示を覚えられない」「何から始めればよいかわからない」「曖昧な指示で混乱する」といった困りごとが続く場合、ADHDやASDなどの神経発達症の特性、あるいはワーキングメモリや実行機能の弱さが背景にあることがあります。
もちろん、「言われたことができない」からといって、すぐに発達障害と決めつけることはできません。
睡眠不足、強いストレス、不安や抑うつ、職場環境とのミスマッチなどでも同じような状態は起こるため、背景を丁寧に見極めることが大切です。
「言われたことができない」のはなぜ?考えられる主な原因
人が指示を受けてから行動に移すまでには、複数の力が連携しています。
たとえば、相手の話に注意を向ける力、言葉の意味を理解する力、内容を一時的に覚えておく力、優先順位を決めて実行に移す力などです。
このうちどこかに偏りや弱さがあると、「理解したつもりなのに実行できない」「聞いたはずなのに途中で抜けてしまう」という状態が起こります。
周囲からは同じように見えても、背景にある原因は一つではありません。
以下の表は、仕事でよくみられる困りごとと考えられる背景を整理したものです。
| 困りごと | 背景として考えられること | 具体例 |
|---|---|---|
| 話の途中で重要な部分を聞き逃す | 注意の持続が難しい、刺激に気を取られやすい | 会議中に別の音や通知が気になり、締切や条件を聞き漏らす |
| 複数の指示を覚えきれない | ワーキングメモリの弱さ | 「印刷して、確認して、共有して」が途中で抜ける |
| 曖昧な指示で動けない | 文脈理解や暗黙の了解の読み取りにくさ | 「適当にまとめておいて」で何をどこまでやるか迷う |
| やるべき順番が決められない | 実行機能の弱さ | 優先順位がつけられず、着手が遅れる |
ADHDの特性が関係している場合
ADHDは、不注意、多動性、衝動性を特徴とする神経発達症です。
大人では、子どもの頃のような目立つ多動よりも、「注意が続かない」「整理が苦手」「長い作業を最後までやりきりにくい」といった形で現れることがあります。
そのため、指示を受けた直後は理解しているように見えても、途中で別の刺激に注意が向き、肝心な部分が抜け落ちてしまうことがあります。
これは意欲の問題ではなく、注意のコントロールや実行機能の特性として説明されます。
ASDの特性が関係している場合
ASDは、対人関係やコミュニケーション、行動パターンに特性がみられる神経発達症です。
人によって現れ方はさまざまですが、言葉を文字どおりに受け取りやすい、あいまいな表現や暗黙のルールを読み取りにくい、といった特徴がみられることがあります。
たとえば「早めにお願いします」「うまくやっておいてください」といった表現は、話し手にとっては自然でも、受け手にとっては情報が不足しており、どう行動すべきか判断しにくいことがあります。
その結果、「言われた通りにやったつもりなのに違った」というすれ違いが起こりやすくなります。
ワーキングメモリや実行機能の弱さが関係している場合
ワーキングメモリとは、情報を一時的に頭の中に置きながら処理する機能です。
たとえば、指示を聞きながら要点を整理したり、作業の途中で次の工程を思い出したりする際に必要になります。
この機能が弱いと、複数の指示を同時に保持しにくく、「聞いている途中で最初の内容を忘れる」「作業を始めたら条件が抜ける」といったことが起こります。
また、実行機能が弱いと、何から始めるべきか、どの順序で進めるべきかを組み立てにくくなります。
【場面別】仕事で起こりやすい「言われたことができない」例
職場では、本人は真面目に取り組もうとしていても、特性のために結果が伴わず、誤解されることがあります。
ここでは、よくある場面を整理します。
複数の指示を一度に出されると混乱する
「この資料を修正して、終わったらメールして、そのあと会議室の準備もお願いします」といった複数の指示を一度に受けると、頭の中で情報が渋滞し、何から着手すればよいかわからなくなることがあります。
これは、段取りを組む実行機能やワーキングメモリへの負荷が高くなるためです。
その結果、優先順位がつけられずに動けなくなったり、一番印象に残った一部だけを行って他を忘れてしまったりします。
周囲からは「簡単なことなのに」と見えやすいものの、本人にとっては負荷の高い状況です。
口頭の説明だけだと、あとから内容が抜ける
会議やその場のやり取りで口頭のみの指示を受けると、後で見返す手がかりが残らないため、聞き漏らしや記憶違いが起こりやすくなります。
特に注意の持続やワーキングメモリに課題がある場合、説明の途中で前半の内容が抜けることがあります。
本人としては「確かに聞いた」という感覚がある一方で、実際に作業へ移ると必要な条件が思い出せないため、ミスややり直しにつながります。
これは不真面目だからではなく、情報の保持と整理に負荷がかかっているためです。
「あれ」「それ」「適当に」が理解しづらい
ASDの特性がある方では、文脈依存の表現やあいまいな言葉が理解しにくいことがあります。
「前と同じ感じで」「いいようにやっておいて」と言われても、何を指すのか、どこまで求められているのかが明確でないと、行動に移しにくくなります。
その結果、間違った方法で進めてしまう、確認が多くなる、あるいは不安が強くなって手が止まるといったことが起こります。
これは理解力が低いということではなく、より具体的な情報があった方が実力を発揮しやすい、という特性の問題です。
※参考:Executive Function Skills – CHADD/Revisiting working memory 50 years after Baddeley and Hitch: A review of field-specific conceptualisations, use and misuse, and paths forward for studying children – PubMed/Autism Spectrum Disorder – National Institute of Mental Health (NIMH)
仕事のミスを減らす具体的な対処法

「気をつける」「もっと集中する」といった精神論だけでは、再現性のある改善につながりにくいことがあります。
大切なのは、本人の特性に合わせて、情報の受け取り方と仕事の進め方を調整することです。
以下の表は、職場で取り入れやすい対処法をまとめたものです。
| 対処法 | 具体的なやり方 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| メモを取って復唱する | 指示を箇条書きにし、「〇〇という理解で合っていますか」と確認する | 認識のずれを防ぎ、記憶の負担を減らす |
| 文章で指示をもらう | チャット、メール、タスク管理ツールを活用する | 後から見返せて抜け漏れを防ぎやすい |
| タスクを細分化する | 「作業を始める前」「途中」「提出前」に分けて確認する | 着手しやすくなり、途中のミスに気づきやすい |
| 途中で報告・確認する | 完了前に小さな単位で進捗を共有する | 大きな手戻りを防ぎやすい |
| 環境調整を行う | 通知を切る、静かな席に移る、イヤホンを使う | 注意の逸れを減らし集中しやすくなる |
1. 指示は必ずメモし、その場で復唱する
頭の中だけで覚えようとすると、抜けや思い違いが起こりやすくなります。
そのため、指示を受けたら短く箇条書きにし、必要なら「締切」「優先順位」「完成イメージ」も確認することが有効です。
復唱は、「理解できていない人の行動」ではなく、「正確に進めるための確認作業」です。
たとえば「本日17時までに、A案とB案を比較した資料を作成し、メールで送る、という認識でよろしいでしょうか」と言い換えるだけでも、認識のずれを減らしやすくなります。
2. 口頭よりも、チャットやメールで残してもらう
文字情報は、あとから繰り返し確認できることが大きな利点です。
とくに、時間が空いてから着手する仕事や、条件が複数ある仕事では、文章で残っているだけでミスの予防につながります。
依頼するときは、「抜け漏れを防ぎたいので、簡単に文章でもいただけると助かります」と伝えると、業務上の工夫として受け入れられやすくなります。
本人の安心感だけでなく、職場全体の手戻りを減らす意味でも有用です。
3. タスクを小さく分け、チェックリスト化する
大きな仕事を一つの塊として捉えると、着手のハードルが上がりやすくなります。
そこで、作業を細かな工程に分けて、ひとつずつ確認しながら進めることが効果的です。
たとえば「資料作成」であれば、情報収集、構成作成、下書き、見直し、提出前確認、提出、のように分けると見通しが立ちやすくなります。
完了した項目にチェックを入れることで、達成感も得られ、次の行動にも移りやすくなります。
4. 途中報告で認識のずれを早めに修正する
仕事のミスは、最初の小さな認識のずれがそのまま進むことで大きくなることがあります。
そのため、最後にまとめて報告するよりも、途中の段階で方向性が合っているかを確認する方が、安全で効率的です。
「まずここまで進めました」「この理解で進めて問題ないでしょうか」といった短い報告でも十分です。
早い段階で修正できれば、やり直しの負担を抑えやすくなります。
5. 集中しやすい環境を整える
周囲の会話、通知音、人の動きなどは、注意を奪う要因になります。
ADHDの特性がある方では、こうした刺激の影響を受けやすいため、環境調整そのものが重要な対処になります。
可能であれば、通知を切る、作業時間を区切る、静かな席を選ぶ、イヤホンや耳栓を使うなどの工夫を取り入れるとよいでしょう。
環境を整えることは甘えではなく、仕事の精度を上げるための現実的な方法です。
受診や相談を考えた方がよいサイン
次のような状態が続いている場合は、精神科や心療内科、あるいは発達障害者支援センターなどへの相談を検討してよいでしょう。
大人になってから特性に気づく人も少なくありません。
- 子どもの頃から、忘れ物、指示の聞き漏らし、段取りの苦手さを繰り返してきた。
- 仕事で同じようなミスを繰り返し、努力しても改善しにくい。
- 曖昧な指示や対人コミュニケーションで強い困りごとがある。
- 自信の低下、不安、抑うつが強くなっている。
発達障害者支援センターでは、日常生活や職場での困りごとの相談、関係機関の紹介、就労に関する支援などが行われています。
また、厚生労働省も発達障害のある方への就労支援や相談体制を案内しており、医療だけでなく福祉や就労支援と連携した対応が重要とされています。
まとめ

「言われたことができない」という困りごとの背景には、ADHDやASDの特性、ワーキングメモリや実行機能の弱さ、あるいはストレスや環境要因など、さまざまな要素が関わります。
そのため、本人の努力不足として片づけるのではなく、どの段階でつまずいているのかを整理し、伝え方や働き方を調整することが大切です。
仕事では、メモ、復唱、文章化、チェックリスト、途中確認、環境調整といった工夫でミスを減らせる可能性があります。
それでも困りごとが強い場合は、早めに医療機関や相談窓口につながることで、自分に合った支援や対処法が見つかりやすくなります。



