トイレでうんちができない発達障害の子ども|まず知っておきたいこと

5歳前後になってもトイレでうんちができないと、保護者としては「このままで大丈夫だろうか」と心配になりやすいものです。
ただし、発達障害、とくに自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある子どもでは、排便が単なる生活習慣の問題ではなく、感覚の敏感さ、不安の強さ、見通しの立てにくさ、こだわりの強さなどが重なって難しくなっている場合があります。
また、子どもが排便を我慢する状態が続くと、便が硬くなって痛みが出やすくなり、さらに「うんちは痛い」「トイレは怖い」という学習につながることがあります。
小児の便秘診療ガイドラインやNICEのガイドラインでも、痛みを伴う排便や便こらえは悪循環をつくりやすいとされています。
そのため大切なのは、「年齢的にそろそろできるはず」と急がせることではありません。
お子さんがどこでつまずいているのかを見極め、特性に合わせて段階的に支援することが重要です。
※参考:Visual supports at home and in the community for individuals with autism spectrum disorders: A scoping review – PubMed/Overview | Constipation in children and young people: diagnosis and management | Guidance | NICE
発達障害の子がトイレでうんちを嫌がる主な理由
発達障害のある子どもがトイレで排便を嫌がる背景には、いくつかの典型的な要因があります。
ひとつだけでなく、複数の要因が重なっていることも少なくありません。
感覚過敏によりトイレがつらい場所になっている
ASDでは、音、触覚、におい、温度などに対する感覚の偏りがみられることがあります。
感覚症状は個人差が大きいものの、ASDの子どもでよくみられる特徴であり、研究でも定型発達児との差が示されています。
たとえば、便座の冷たさや硬さがつらい、水を流す音が怖い、狭い空間の反響が苦手、においが気になる、といったことがあります。
大人には小さな刺激でも、子どもにとっては強い不快感や恐怖になっている場合があります。
「この姿勢・この場所でないと出せない」というこだわりがある
「オムツを履いて立ったままでないと出せない」「いつもの部屋でないと不安」といった強いこだわりがみられることがあります。
これは単なるわがままではなく、成功したやり方を保つことで安心しようとする行動と考えられます。
排便は身体の内側で起こる変化を伴うため、不安が強い子どもほど、慣れた条件から離れることを嫌がります。
無理に条件を変えると、便意そのものを我慢するようになり、便秘を悪化させる原因になることもあります。
排便の仕組みや流れをイメージしにくい
発達障害のある子どもの中には、「お腹がムズムズする」「うんちが出そう」「トイレに行くと楽になる」といった身体感覚と行動のつながりを理解しにくい子がいます。
見えない体の中の出来事をイメージするのが難しく、言葉だけの説明では十分に伝わらないことがあります。
その結果、「何が起きるのかわからない」「でも何となく怖い」という感覚が残り、トイレを避ける行動につながることがあります。
ASD支援では、言葉だけでなく視覚的な手がかりを用いて見通しを持てるようにすることが有効とされています。
痛みの記憶や漠然とした不安がある
過去に便秘で硬い便が出て痛かった経験があると、「また痛いかもしれない」という不安が残りやすくなります。
NICEのガイドラインでも、痛みを伴う排便は見逃されやすい一方で、便こらえの重要な背景になるとされています。
言葉でうまく説明できない子どもでは、保護者からは理由がわかりにくく、「急に嫌がる」「何となく怖がる」と見えることもあります。
しかし、本人の中では十分に切実な不安である可能性があります。
原因別にみる困りごとと対応の方向性
以下の表は、家庭で観察しやすいサインと、考えられる背景、対応の例を整理したものです。
表のとおり、同じ「トイレでうんちができない」という悩みでも、背景は一人ひとり異なります。
対応は一律ではなく、感覚・不安・理解・便秘の有無を分けて考えることが大切です。
トイレでうんちができるようになるための進め方

発達障害のある子どもの排便支援では、いきなり「トイレで出す」ことを最終目標にしないほうがうまく進みやすくなります。
今できていることを土台にして、少しずつ移行する方法が勧められます。
ステップ1:まずはトイレを安心できる場所にする
最初の目標は、排便そのものではなく「トイレに入れる」「数分過ごせる」ことです。
無理に座らせたり、成功を求めたりせず、保護者と一緒に入る、本を読む、お気に入りのグッズを持ち込むなどして、安心できる体験を増やします。
ステップ2:感覚刺激をできるだけ減らす
感覚過敏が強い場合は、環境調整がとても重要です。
便座カバー、補助便座、足台、照明の調整、換気、音への配慮などで、トイレの負担を減らします。
こうした工夫は甘やかしではなく、子どもが取り組みやすくなるための調整です。
ステップ3:オムツ排便から段階的に移行する
オムツでしか出せない場合は、いきなりオムツを外さないことが大切です。
たとえば、
- いつもの場所でオムツ排便
- トイレの前でオムツ排便
- トイレの中でオムツ排便
- トイレの中で座ってオムツ排便
- オムツを外して排便
というように、小さく区切って進めます。
実際、便だけトイレを拒否する子どもに関する前向き研究では、便こらえが強い場合に、いったんオムツに戻すことで数か月以内に自然にトイレ排便へ移行した例が報告されています。
ステップ4:視覚支援で「何をするか」を見える化する
ASD支援では、視覚支援が不安の軽減や予測可能性の向上に役立つとされています。
視覚支援とは、絵カードや写真、イラスト、手順表などを使って、言葉だけではわかりにくい流れを見える形にする方法です。
たとえば「トイレに行く→ズボンを下ろす→座る→終わったら拭く→流す→手を洗う」といった順番を絵にして示すと、次に何が起きるかがわかりやすくなります。
見通しが立つと、不安が和らぎやすくなります。
ステップ5:結果より過程をほめる
「出せたかどうか」だけを評価すると、子どもにとってはプレッシャーになりやすくなります。
そのため、「トイレに入れた」「便座に座れた」「嫌だったけれど挑戦できた」といった過程を具体的に認めることが大切です。
ほめるときは、「えらいね」だけでなく、「足台を使って座れたね」「怖い音があったけれど頑張れたね」など、何ができたのかを言葉にすると伝わりやすくなります。
保護者が心がけたいポイント
支援の方法と同じくらい大切なのが、保護者の関わり方です。
トイレの問題は親子ともにストレスがたまりやすいため、焦りが強まるほど悪循環になりやすくなります。
- 叱らない、無理強いしない
- 年齢だけで判断しない
- 失敗を責めず、できた過程を見る
- 排便頻度や便の硬さを確認する
- 便秘が疑われるときは早めに相談する
とくに注意したいのは、便秘の見逃しです。
排便回数が少ない、硬い便が多い、排便時に痛がる、お腹を気にする、便意を我慢する仕草がある場合は、トイレトレーニングの問題だけでなく便秘への対応が必要なことがあります。
受診を検討したい目安
次のような場合は、小児科、小児の便秘外来、児童精神科、発達外来などへの相談を検討するとよいでしょう。
| 受診を考えたいサイン | 理由 |
|---|---|
| 排便を何日も我慢する | 便秘が進み、痛みや悪循環につながるため |
| 便が硬く、出すときに痛がる | 痛みの記憶でトイレ拒否が強まりやすいため |
| お腹の張り、腹痛、食欲低下がある | 便秘に伴う症状の可能性があるため |
| 5歳前後以降も強い拒否が続く | 家庭だけでは調整が難しいことがあるため |
| パニックや強い不安がある | 感覚面・不安面への専門的支援が役立つため |
相談先では、排便の状況、便の硬さ、いつから困っているか、どの場面で嫌がるか、成功した条件は何かを整理して伝えると、支援方針を立てやすくなります。
まとめ

発達障害のある子どもがトイレでうんちをできない背景には、感覚過敏、こだわり、不安、理解のしにくさ、便秘や痛みの経験など、さまざまな要因が関係します。
大切なのは「なぜできないのか」を丁寧に見立て、その子に合った方法で一歩ずつ進めることです。
とくに自閉スペクトラム症のある子どもでは、見通しの立てやすさと安心感が支援の土台になります。
焦って進めるよりも、トイレを安心できる場所に整え、視覚支援やスモールステップを用いながら、必要に応じて便秘の治療や専門機関の支援を受けることが、結果的に近道になることがあります。
参考文献・出典
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed. (DSM-5)
- National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Autism spectrum disorder in under 19s: support and management
- 厚生労働省. 発達障害支援に関する資料
- 日本小児消化管機能研究会. 小児機能性便秘診療ガイドライン
- Ben-Sasson A et al. (2009). A meta-analysis of sensory modulation symptoms in individuals with autism spectrum disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders



