ADHDとASDの併発とは?一見矛盾する特性が同時に現れる状態
ADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)の併発は、それぞれの特性が混ざり合って現れる状態を指します。
例えば、ADHDの「衝動性」とASDの「こだわり・不安の強さ」が同時に存在することで、「新しいことに挑戦したいのに、失敗を恐れて動けない」といった、相反する行動が見られることがあります。
このような特性の併存は、どちらか一方の障害だけでは説明がつかず、周囲から理解されにくい複雑な困難さを生み出す原因となります。
まずは基本から解説!ADHD(注意欠如・多動症)の主な特性
ADHD(注意欠如・多動症)は、「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの主要な特性を持つ発達障害です。
不注意の症状としては、集中力が続かず、忘れ物や紛失が多い、約束を忘れるといったことが挙げられます。
多動性は、じっとしているのが苦手で、そわそわと手足を動かしたり、貧乏ゆすりをしたりする行動として現れます。
衝動性は、考えずに行動してしまう傾向を指し、順番を待てない、他人の会話に割り込むといった形で現れることがあります。
これらの特性の現れ方や強さには個人差があり、全ての症状が必ず見られるわけではありません。
こだわりや感覚の特性が目立つ ASD(自閉スペクトラム症)とは
ASD(自閉スペクトラム症)は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「限定された興味やこだわり」を主な特性とする発達障害です。
相手の気持ちを察したり、場の空気を読んだりすることが苦手で、一方的に話してしまうことがあります。
また、特定の手順やルールに強くこだわる、興味の範囲が非常に狭いといった特徴も見られます。
かつてアスペルガー症候群と呼ばれていたものも、現在はこのASDに含まれます。
なお、学習障害(LD)は読み書きや計算など特定の能力に困難が生じるもので、ASDとは異なる障害ですが、併存する場合もあります。
なぜADHDとASDは併発(併存)するのか?その背景を解説
ADHDとASDが併発しやすい背景には、両者の神経発達における遺伝的・生物学的な共通基盤があると考えられています。
具体的な原因はまだ完全には解明されていませんが、脳の前頭前野の機能不全など、共通する脳の働きが関与しているという説があります。
実際の併存率は報告によって差があるものの、ADHDのある人の約30〜50%、ASDのある人の約20〜30%がもう一方の特性も併せ持つとされています。
この高い併発率から、かつては併存診断が認められていませんでしたが、2013年の米国精神医学会の診断基準改訂により、正式に両方の診断が可能となりました。
【チェックリスト】ADHDとASD併発時に見られる「矛盾した」行動パターン

ADHDとASDを併発すると、それぞれの特性が干渉し合い、単独の診断では説明できないような、一見矛盾した行動パターンが現れることがあります。
これは、衝動的に行動したいADHDの傾向と、変化を嫌い慎重に行動したいASDの傾向がせめぎ合うことで生じます。
特に大人の場合、社会経験を積む中で特性が複雑化し、より分かりにくい形で現れる傾向があります。
以下に、併発時に見られる具体的な行動パターンを場面ごとに紹介します。
行動面:衝動的に動きたいのに、失敗を恐れて一歩も踏み出せない
ADHDの衝動性は「思い立ったらすぐ行動したい」という欲求を生み出しますが、同時にASDの特性である「先の見通しが立たないことへの強い不安」や「失敗への過度な恐怖」が存在します。この二つの特性がぶつかり合うことで、心の中では行動したい気持ちが高まっているにもかかわらず、実際には不安が勝ってしまい、何もできずに固まってしまうという状況が生まれます。
結果として、周りからは「やる気がない」「優柔不断」と誤解されることも少なくありません。行動を起こすまでに極端に時間がかかったり、結局断念してしまったりするため、自己嫌悪に陥りやすい状態です。
対人面:人と関わりたい気持ちは強いのに、関係を築くのが苦手
ADHDの多動性や衝動性は、人への好奇心や関心として現れることがあり、「誰かと話したい」「仲良くなりたい」という欲求につながります。
しかし、ASDの特性によって、相手の表情や言葉のニュアンスを読み取ることが難しかったり、適切な距離感がつかめなかったりするため、コミュニケーションが一方的になりがちです。
また、相手の発言を文字通りに受け取ってしまい、冗談が通じないこともあります。
このため、人と関わりたいという気持ちとは裏腹に、関係を深める過程でつまずきやすく、孤立感を深めてしまうという矛盾した状態に陥ることがあります。
興味関心面:強いこだわりがあるのに、注意がそれて長続きしない
ASDの特性として、特定の分野に対して非常に深い興味やこだわりを持つことがあります。
好きなことに関しては驚異的な集中力を発揮し、専門家並みの知識を蓄えることも珍しくありません。
しかし、ADHDの注意散漫さが併存しているため、そのこだわりの対象に集中している最中でも、他の刺激に気を取られてしまい、興味が別のものに移ってしまうことがあります。
一つのことを突き詰めたいという欲求と、次々と新しい刺激を求める特性が混在するため、結果的に「飽きっぽい」「中途半端」と見られてしまうことがあります。
本人も、探求心が満たされないまま終わることに不全感を抱きがちです。
思考面:完璧主義で計画を立てるが、マルチタスクが苦手で実行に移せない
ASDの特性である「こだわり」や「完璧主義」から、物事を始める前に綿密で理想的な計画を立てようとします。
細部にまでこだわり、あらゆる可能性を考慮した完璧なプランを作成することに時間を費やす傾向があります。
一方で、ADHDの実行機能の困難さ、特に複数の作業を同時にこなすマルチタスクの苦手さが影響し、その完璧な計画を実行に移す段階でつまずいてしまいます。
計画通りに進まないことへのストレスや、どこから手をつけていいか分からなくなる混乱が生じ、結果的に何も始められないまま時間だけが過ぎていくという状況に陥ります。
この思考の型は、理想と現実のギャップに苦しむ原因となります。
感覚面:特定の刺激には非常に敏感なのに、別の刺激には鈍感なことがある
ASDの特性として、音や光、匂い、触覚など特定の感覚が非常に鋭い「感覚過敏」と、逆に痛みや温度などに気づきにくい「感覚鈍麻」があります。
ADHDと併発すると、この感覚のアンバランスさがより複雑に現れることがあります。
例えば、会議室の蛍光灯の光や時計の秒針の音には耐えられないほど敏感に反応する一方で、ADHDの不注意から、服が汚れていたり、軽い怪我をしていたりすることには全く気づかないといった状況です。
このように、ある刺激には過剰に反応して疲弊するのに、別の刺激には無頓着であるため、周囲からは気まぐれやわがままに見えてしまうこともあります。
なぜ併発すると診断が難しい?単独の特性と見分けがつきにくい理由

ADHDとASDの併発は、それぞれの特性が互いに影響し合い、典型的な症状とは異なる形で現れるため、診断が非常に難しいとされています。
一方の特性がもう一方を打ち消すように作用したり、逆に強め合ったりすることで、症状が複雑化し、単独の障害の診断基準だけでは捉えきれなくなることが主な理由です。
このため、専門家でも判断に迷うケースが少なくなく、正確な診断に至るまでに時間がかかることもあります。
互いの特性が打ち消し合い、典型的な症状として現れにくいから
ADHDとASDの特性は、時に正反対の作用を示すことがあります。
例えば、ADHDの「多動性」は外向的な行動として現れやすいですが、ASDの「社会的な不安」や「内向性」が強い場合、人前に出ることを避けるため、多動性が目立たなくなることがあります。
逆に、ASDの「こだわり」によって一つの作業に没頭しているように見えても、内面ではADHDの「不注意」によって思考が次々と移り変わっているケースも見られます。
このように、互いの特性が表面的な行動を打ち消し合うことで、本来の困難さが見えにくくなり、発達障害の存在そのものが見過ごされてしまう原因となります。
片方の特性が強く出ることで、もう一方の特性が見過ごされがちになるから
併発している場合でも、どちらか一方の特性がより顕著に現れることがよくあります。
例えば、ADHDの多動性や衝動性が非常に目立つ子供の場合、その行動上の問題に注意が向きがちで、背景にあるASDの対人関係の困難さやこだわりの強さが見過ごされてしまうことがあります。
逆に、ASDの特性である物静かさやコミュニケーションの苦手さが前面に出ていると、その子の「不注意」や「集中力のなさ」は性格的なものと解釈され、ADHDの可能性が考慮されないままになることも少なくありません。
このように、目立つ症状の影に隠れたもう一方の特性を見つけることが診断の難しさにつながります。
併発の可能性を感じたら?専門機関での相談から診断までの流れ

自分自身や家族がADHDとASDの併発かもしれないと感じたら、一人で抱え込まずに専門機関へ相談することが重要です。
発達障害の診断は、専門的な知識を持つ医師による問診や心理検査などを通じて総合的に行われます。
早期に相談し、正確な診断を受けることで、自身の特性を正しく理解し、適切なサポートや対処法につなげることが可能になります。
ここでは、相談先の探し方から診断に至るまでの具体的な流れを解説します。
どこに相談すればいい?発達障害者支援センターや専門医療機関の探し方
発達障害に関する相談は、まず地域の「発達障害者支援センター」にするのが良いでしょう。
ここでは、専門の相談員が話を聞き、地域の医療機関や支援機関に関する情報提供、受診の手続きのサポートなどを行ってくれます。
医療機関で相談する場合は、発達障害を専門とする精神科や心療内科、児童の場合は小児神経科や児童精神科が対象となります。
病院のウェブサイトで「発達障害の診断・治療」を標榜しているか確認したり、発達障害者支援センターに問い合わせて専門医のいる医療機関を紹介してもらったりする方法が確実です。
予約が取りにくい場合もあるため、早めに連絡することをおすすめします。
診断で行われる問診や心理検査の具体的な内容
発達障害の診断では、まず医師による詳しい問診が行われます。
現在の困りごとに加え、幼少期からの成育歴、学校や職場での様子などについて詳しく質問されます。
これは、発達障害が生まれつきの脳機能の障害であるため、子供の頃から特性が一貫して見られるかを確認するためです。
問診と並行して、知能検査(WAIS-IVなど)や発達特性を評価するための心理検査(AQ、CAARSなど)が実施されることもあります。
これらの検査は、得意なことと苦手なことの差(ディスクレパンシー)を客観的に把握し、診断の補助的な情報として活用されます。
検査結果と問診の内容を総合的に判断し、診断が下されます。
正確な診断のために医師に伝えるべき幼少期からの困りごと
正確な診断を受けるためには、医師に幼少期からの具体的なエピソードを伝えることが非常に重要です。
母子手帳や学校の通知表、卒業アルバムなど、当時の様子が分かる資料を持参すると役立ちます。
伝えるべき内容としては、「集団行動が苦手だった」「忘れ物や失くしものが多かった」「友達の輪にうまく入れなかった」「特定の物事に強いこだわりがあった」「授業中じっとしていられなかった」など、具体的な困りごとを思い出してまとめておくと良いでしょう。
可能であれば、両親や兄弟、旧友など、子供の頃の様子を知る人から話を聞いておくことも有効です。
これらの情報が、特性の背景を理解する上で重要な手がかりとなります。
複雑な生きづらさを軽減するための具体的な対処法

ADHDとASDの併発による複雑な生きづらさを軽減するには、まず自分自身の特性を正しく理解することが不可欠です。
どちらの特性が、どのような場面で困難さを引き起こしているのかを分析し、それに基づいた対策を立てていく必要があります。
画一的な方法ではなく、自分の強みと弱みを把握した上で、環境を調整したり、専門家の支援を受けたりするなど、多角的なアプローチで対処していくことが、困難さを和らげる鍵となります。
自分の「得意」と「苦手」を理解して環境を調整する
まず、どのような状況で困難を感じやすいか(苦手)を具体的に把握し、一方でどのような環境なら集中できたり、能力を発揮できたりするのか(得意)を自己分析することが第一歩です。
例えば、「聴覚情報よりも視覚情報の方が理解しやすい」「マルチタスクは苦手だが、シングルタスクなら高い集中力を発揮できる」といった特性を理解します。
その上で、物理的な環境を調整することが有効です。具体的には、騒がしい場所ではノイズキャンセリングイヤホンを使う、タスクは一つずつ付箋に書いて目に見える化する、といった工夫が考えられます。自分に合った環境を主体的に作ることで、苦手な面をカバーし、ストレスを軽減できます。
どちらの特性から困難が生じているか見極めて対策を立てる
直面している困難がADHDとASDのどちらの特性に起因しているのかを見極めることで、より効果的な対策を立てられます。
「会議の内容が頭に入らない」という困難がある場合、それがADHDの不注意によるものなのか、ASDの特性で口頭での指示理解が苦手なためなのかで対処法は異なります。
前者であれば、薬物療法やこまめにメモを取る習慣が有効かもしれません。
後者であれば、事前に資料をもらったり、議事録で確認したりする方法が考えられます。
このように、困りごとの根本原因を分析し、それに応じた対策を講じることが、問題解決への近道となります。
専門家によるカウンセリングや薬物療法で困りごとを緩和する
セルフケアだけでは対応が難しい場合は、専門家のサポートを活用することが重要です。
カウンセリングでは、認知行動療法などを通じて、物事の捉え方や行動パターンを整理し、ストレス対処法を学ぶことができます。
また、医療機関ではADHDの不注意や多動性・衝動性を緩和するための薬物療法が選択肢となることがあります。
薬によって集中力を維持しやすくなることで、ASDの特性と向き合う余裕が生まれる場合もあります。
必要に応じて、精神障害者保健福祉手帳の取得を検討し、就労支援などの福祉サービスを利用することも、安定した生活を送るための有効な手段です。
ADHDとASDの併発に関するよくある質問

ADHDとASDの併発については、その複雑さから多くの疑問が寄せられます。
ここでは、治療薬の処方、大人と子供での特徴の違い、そして仕事選びといった、特に関心の高い質問について回答します。
これらの情報を参考にすることで、併発に関する理解をさらに深めることができるでしょう。
併発している場合、治療薬はどのように処方されますか?
ADHDとASDを併発している場合、薬物療法は主にADHDの不注意や多動・衝動性の症状を緩和する目的で処方されます。
ASDの特性自体を改善する薬は現在ありませんが、ADHDの症状が緩和されることで、二次的にASD由来の困難さが軽減されることがあります。
医師が両方の特性を考慮し、効果と副作用のバランスを見ながら慎重に薬の種類や量を調整します。
大人と子供で、併発の特徴に違いはありますか?
基本的な特性は大人と子供で変わりませんが、その現れ方には違いが見られます。
子供の頃は多動性など行動面の問題が目立ちやすい一方、大人は社会経験を通じて特性をコントロールする方法を身につけ、内面的な不注意や衝動性に悩むことが多くなります。
また、大人の場合は二次障害としてうつ病や不安障害を併発していることも少なくありません。
併発している場合、仕事選びで気をつけることは何ですか?
ADHDの「注意散漫」「飽きっぽさ」と、ASDの「対人関係の苦手さ」「こだわり」の両方を考慮する必要があります。
マルチタスクや臨機応変な対応、頻繁なコミュニケーションが求められる職種は避けた方が良いでしょう。
一方で、ルールが明確で、自分のペースで集中できる環境や、特定の専門知識を活かせる仕事では強みを発揮しやすい傾向があります。
まとめ

ADHDとASDの併発は、不注意とこだわり、衝動性と不安といった相反する特性が同時に存在するため、単独の障害とは異なる複雑な生きづらさを生み出します。
その特性は、行動面、対人面、思考面など多岐にわたり、互いの特性が打ち消し合うことで診断が難しくなるケースも少なくありません。
もし併発の可能性を感じた場合は、発達障害者支援センターや専門の医療機関に相談し、正確な診断を受けることが重要です。
自身の特性を正しく理解し、環境調整や専門家のサポートを活用することで、困難さを軽減し、自分らしく生活していくための道筋を見つけることが可能になります。






